善意の仮面

弁護士が自分の依頼人の秘密をマスコミの前でベラベラ喋っている。どこかおかしくないか?
その様子を報道するテレビ局のキャスターは「真実を皆の前で明かにして欲しいですね」と弁護士の暴挙を歓迎するコメントを発している。どこかおかしくないか?
弁護士に依頼人守秘義務を守れと言うのはおかしい事なのか?
日本全国どこかおかしくないか。
容疑者は罪を犯したのかもしれない。しかし真っ当な裁判を受ける権利はあるはずだ。裁判を前に自分にとって不利なことを全て公開に晒されると分かったら、次ぎから弁護士を信用しなくなり、弁護士に対して真実を語らなくなるかも知れない。それは逆に大きな社会的損失ではないか。
容疑者の行動が公衆に対して開示されるのは裁判の席まで待つべきだ。そこまで待つことに対して社会的損失があることは考えられない。
自分がさも正義の味方であるかのごとく記者会見に応じる弁護士二人が善意の仮面をかぶった悪魔に見えた。
似たような場面を朝の通勤電車の中で見た。
いつもより少し遅い電車に乗ったせいで混雑はラッシュのピークに比べれば大分少なかったがそれでもかなりの人が立っていた。僕の斜め前には如何にもオバタリアンという風情の女性が坐っている。
その女性がある駅で席を立った。その前に立っていた少し若い女性は待ってましたとばかり体を席に向けようとするが、前に坐っていた女性がそれを拒む動作をする。その女性は遠くにいるおばあさんに「ホラ、こちらへ」とばかり手招きし、前に立っていた女性を押しのけておばあさんを座らせた。
オバタリアンは自分の善意に満足そうに駅に降りていった。
ちょっと待てよ。自分の席を譲ったのならその善意を認めよう。そうじゃないだろう。自分が降りることになって時点でその席に坐る権利は前に立っていた女性のものになったのじゃないのか?次ぎに誰が座るかということまで自分で支配しようというのか?
ここにも善意の仮面をかぶった悪魔がいた。